27-02-2007
犬を忘れた犬-名無し

好きな人を得ては捨てられ、好きな名前を得ては捨ててしまった。
自分は人に捨てられ、その仕返しに自分は与えられて大切にしていた名前を捨てた。
それを幾度か繰り返し、ついに自分は人の街からも捨てられてしまいこんな場所へ来てしまった。

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はじめのうちはまだよかった。自分はまだ犬らしさを持っていた。
捨てられるのが怖くて人の顔色を窺うのが得意で、嫌われそうになれば一生懸命好かれるようにと頑張った。
それでも駄目で捨てられてしまえばおとなしく、街の隅っこで自分を噛んだ。
そうすると別の誰かに同情してもらえ、拾ってもらえることを学んだ。だからひとりになる度人目につく場所で自分を噛んだ。

何度も捨てられることと捨てることを繰り返すうちに、自分は段々と犬らしさを失ってしまった。
自分から相手にじゃれつくことを忘れ座ってるだけで何もしない。そうして構ってもらえるのをただじっとして待っているだけ。
飽きられ捨てられそうになっても、以前のように一緒に居てと懇願することもなく。
捨てられる前に自分から相手を捨ててしまおう、そしてまた他の誰かに拾ってもらおうという考えしか持てなくなった。

捨てられることが怖いから先に捨ててやる、を繰り返せば人に好かれない性格へとひとり歩いてしまうのは当然のこと。
好きだった人とつけてもらった大切だった名前を捨て、行く場所なく街を歩いていると色んなものが目に障り敏感な耳に障る。
自分は人目につかない場所で自分を噛むようになった。人目につく場所では自分から街を隠し、街から自分を隠すようにした。
そうしたら誰も自分を拾ってはくれなくなった。
すれ違う、人と楽しそうにしている犬が自分を見て目で似非笑い、飼い主に鳴く。「いま、自分がどれだけ幸せなのかわかりました」

街の夜。覚えている自分が、はじめて人に拾ってもらった商店街近くの工場前で蹲っていた。顔を隠し何も見えないようにしていた。
人の音と忘れていた匂いで顔を上げる。正直、もしかしたらあの人かもしれないとか誰か知らない人でも拾ってもらえるのでは、なんて思ったりしていた。
両面が灰色になった犬を拾う人なんて居やしなかった。少し乱暴に扱ってもらえるのは好きだったけど、この時だけはよろこべなかった。
街に自分の居場所のないことは知っていたけれど、追い出されてしまうのはとても嫌だった。


自分を隠すのが得意になってしまった所為か自分を晒せなくなっていた。
自分に似た色のない空をした街、誰の気配もない壊れかけの商店街をひとりで歩く。
途中で見かけた細い逃げ道の先。後半の自分が好き好んでいた、薄暗くて汚い誰も居座ろうとはしない路地裏。
煙草の吸殻がいくつか落ちている。自分がいないときに残された誰かの足跡。
居心地の良さそうな場所だと思ったけれど、ここには知らない誰かが居たみたいだ。
少し興味を持ったものの結局はこわくなって、この時はすぐにそこから立ち去ってしまった。