逃げ込んだ楽な場所-犬九月
25-08-2008



吐き気を堪え左手で口を覆いながらいつもの場所へと向かう。
稚拙な街並みを映し出す眼に右手が震え、苛立ち、焦って駆け出す。
眼を逸らした先には歪な物が並び、顔を上げれば異形の者と眼を合わせる。
描きたいのに描けない、稚拙な描画をする頭に吐き気は増すばかり。

正方形の小さな壁が規則正しく並ぶその場所、陰影は緩やかに、極端に。
強い光は頭上で丸くお日様となり、そこから離れるに連れて暗く、隅っこは真っ暗に。
最も空気を目にしやすいその場所。余計な物のないその空間。
安堵し、尿のこびり付く便器に口付ける。舌を這わし乾いた尿は涎で浮かび上がる。
勃起した性器を右手に、堪えていた吐き気を解放する。
吐き出せば止まらない、事を終えるまでの束縛・拘束の作業。
ずっとここに閉じ篭っていようか、そんな事を考えてしまう。

ふと誰かの気配、ノックの音で気付かされる。
閉じ篭っているな、ここはお前の居場所ではない、早くそこから出ろと。
慌てて吐く振りを止めて飛び出れば、誰も居らず気配だけがその存在を知らせた。
その気配はその空間へ入り込み鍵を掛け、自分はすっかり外へ追いやられてしまった。
表に出ればやっぱり全ては歪んでいて、それでも不思議と気にならなくなっていた。ほんの少しは。
眼は現実を描画しなくてはならない訳ではない、しかしせめて、面白く歪ませろ。楽しくなるのはそいつだ。
すれ違いざまに、髪の毛をぼさぼさに乱れさせた猫が黄色い眼を光らせそう言った。