
12-09-1985
一犬夜行-クガツ
壊れたものに囲まれた汚い箱の中に我が身を置き、居心地の良さと悪さに囲まれ身動きが取れなくなった日々。
粗大ゴミに囲まれた中で頭を抱えてそのままの姿勢でいると、自分が周りの一部分になれた気がして何となく落ち着けた。
何処へ自分を置いても馴染むことは出来ず、人の所有物であることを望んでその様に振舞うことを繰り返してばかりいた自分を思い返す。
捨てられては拾われることを幾度か繰り返し、その度に自分は段々と錆付いてゆき、誰かからも自分からも近寄りがたいゴミとなっていた。
捨てられることが怖くなり相手に飽きられる前に逃げ出し、そして「自分が相手を捨てたんだ」と考えて自分を慰める。
どうしても好きだとしか思えない人に捨てられてしまうのが怖いからと、無理矢理に逃げてしまい、そして自分勝手な被害妄想に身を置いて蹲る。
「そんなに自分が可愛いか大事か」と痩せ細った身体を晒し、歪んだ顔を隠した犬に問い掛けられる。
俺は自分からも他人からもそんなに大事なものではないと思う。存在は無いし、命には重みがない。
「自由に振舞いやすい条件が揃っているのならやりたいようにやってしまえばいいのに」と、犬が歪んだ歯並びを見せながら大人しく笑った。
その度に、常々人に触れたいと思っていたので自分で妥協してくれる人間を探して、頭に直接響く痛みに口を汚し悦んでいた。
俯いた顔を上げて自分の周りに目をやった。細い手首の先、歪めた光を周りに当り散らかしている、割れた鏡に映ったどうしようもない顔。
よくもまあ、こんな犬を相手にしてくれたものだと思い、見るのが辛くなったので目を逸らした。
動きたがった、軽いくせに重い身体を立たせて歩き出す。自分の気配もない色を感じない街並みを2つの脚で何も考えずにただ歩く。
ひと気のない場所に蹲り、歩くところもひと気のない道ばかり。頼りない街灯の光と光の間にある影ばかりを好んでしまう自分が情けない。
行く先は考えていないけれど、いつも行き着く場所は決まっている。何か見たいものがある訳でもなければ誰かが居る訳でもない。
辿り着いた先でも結局はただ蹲って同じことを思い浮かべるだけ。楽しいことを思い出して一人で笑って、そこでも身動きが取れなくなる。
正直楽しくないし、飽きてうんざりしているのに、何故か同じことをしつこく繰り返してばかりいる。
辛くて仕方がないし、こんなものはさっさと壊れてしまえば良いと思っているのにどうすれば良いか分からず立ち尽くし、何気なく辺りを見回した。
今まで見向きもしなかったいくつもの知らない細い道、行く先を隠すように入り組んだ家や壁に目を向けて、想像の出来ないその向こう側にある
いくつもの生き先への通り道を見つけたように思えた。想像と違っても構わない、何もなくても構わない。ただ知らないみちを歩いてみたかった。