
01-11-2009
眩しかった薄闇の思い出-瀬田とフェリス
お店も終わり、みんなも二階で寝静まった真っ暗な時間。
明日、目が覚めたら書こうと思う日記帳とペンを机の上に置いて、ベッドに入り込みました。
自分は相変わらず眠るのが苦手で、上の街に居た頃の出来事、もう会えない妹のことを頭の中でぐるぐるさせていたのですが、
気付けば長い時間が経っていたように思います。
ある時、僕の敏感な耳が、いや敏感でなくても気付く様な大きな音が階下で聞こえて、ぴくりと反応しました。
何の音だろう。戸締りの確認はしっかりとしましたしもうお客さんも居ませんし、お店のみんなももう寝ちゃってるでしょうし。
猫さんかなあ、いつも変なことばかりしているし。とも思いましたが、もしかしたら泥棒さんかも知れないと不安になりました。
盗んでも喜べるようなものなんてないですよ、と思いながらベッドから抜け出して、様子を見に行こうと部屋を出ました。
すぐ近くで何かの気配、滅茶苦茶に乱れた髪の毛を掻き毟っている猫さんでした。
お風呂に入るのが嫌いらしく毛は好き勝手に乱れているし、何より臭います。本人は自分のその匂いが好きなんだそうです。
でも僕は気になります。飲食店なので不潔なのはどうかと思います。
僕が近付いて異変のことを喋ろうとすると、猫さんは人差し指を口の前に立て小さな声で
「きっと馬鹿な奴が勝手に上がりこんでやることやってんじゃね?覗いてやろう覗いてやろう」
と階段の方へ手招きしました。いやいやいくらなんでもそれはないでしょう、きっと泥棒ですよ泥棒。と小さな声で突っ込みを入れようと思いましたが
猫さんの左手に危ないものを認め、黙りました。
僕も何か武器になるようなものを、と思いもしもの時の為に備えておいたフライパンを部屋から持ち出しました。
僕を先頭に腰を屈め、物音を立てずに階段を下りている最中にも猫さんは静かに騒々しく、色々と自分勝手な妄想を振りまいています。
「おいおいおめえ、警察犬やってた癖になんでフライパンなんて持ってんだよ。普通銃だろ銃。とっ捕まえてケツに突きつけてやりたいぜ」
などとも言っていましたが、銃器の類は怖くて駄目だったんです。フライパンで充分なんです。
階段を降りきってお店へ通じる廊下から見える、窓から入り込む夜を表す弱い光が差し込んだ店内。
光が窓際のボックス席を弱く照らしていて、時々物思いをするときに一人で座っていたりするのですが、その時と同じ様にきれいです。
ふと光を遮る影。倒れ込むように地面へと黒いものは消えて、騒がしい音と「ギャッ!」という悲鳴。
なんでこんなに大きな声で悲鳴を上げるのか、もうちょっと用心しないのかなと思いましたがお陰で正体が分かっちゃいました。
何もない床で転んではテーブルにぶつかったり倒れ込んだりする影の正体は、蜂、なのかな、そんな姿をしているクガツさんでした。
程よい闇の中で僕達三人、床に正座をしたクガツさんの前で猫さんが呆れた言葉を口にしながら包丁を玩ぶ度に、
蜂さんはびくりとしながらギャッとおもちゃの蝉の様に声をあげます。
フライパンをカウンターテーブルに置き、電気を付けてなんでこんなことをしたの?と聞くと
「あアのデすねヤギさんにさいきんゴハンもラえなくなっちゃッてドウしてもどうシテもおなカがスイちゃッてしかタナカったんですナニかタベモノください」
甲高い声で速く五月蝿く喋る声を聞くと、猫さんは苛々するようで相変わらずギャッと悲鳴を上げさせて遊んでいるようですが
僕は元気があって良いなあと感じます。
お腹が空いてるからって勝手に入っちゃ駄目ですよ、と注意すると涙を浮かべながらの笑顔でウンウンと頷きました。
猫さんも何だかんだで料理の支度をしてますし、自分も眠れそうにありませんし、少しお話を楽しみたいです。
キツネさん二人が階下の騒々しさに気付くのはもう少し先のこと。
結局は光が強くなるまでお店の全員で賑やかに過ごし、明るい時間のお仕事に支障をきたしてしまいます。
猫さんはだらしなく苛々しながらも楽しそうでした。